哺乳類の保全を巡ってー外来種問題(その1)
外来種問題(その1)
外来種とは、もともと自然分布していない地域や水域に、意図的かそうでないかを問わず人為によって運ばれた生物種のことで、在来種や生態系に及ぼす影響のとくに大きなものを「侵略的外来種」と言います。
外来種の影響には、生物多様性保全上の問題として、生態の似た在来種との競合、在来種の捕食・採食、遺伝的に近い在来種との交雑など、人間に直接関わる問題としては、農林水産業被害、生活被害、健康被害などがあります。
外来種は世界的に、生息・生育場所の消失・劣化についで、過剰捕獲・採取とともに、多くの野生動植物の絶滅のおそれを高める要因となっています。そのため、1992年に採択され、翌年発効し、日本も批准している「生物多様性条約」の第8条(h)には、締約国は「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」と述べられています。
日本では外来生物法が2004年に制定され、海外起源の外来種で生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすものの「特定外来生物」指定、その定着を防ぐための飼養・栽培・移動などの規制、野外への放逐の禁止、定着したものの根絶あるいは制御を目指した防除事業の実施などが定められ、翌年から施行されています。なお「特定外来生物」は、国外産のものに限定され、国内で自然分布域外に導入されたもの(国内外来種)は指定されないこと、また、人間に直接害を及ぼすようなものも含むことから、冒頭で説明した「侵略的外来種」と同義ではないことに注意してください。
外来種問題は、単に自然に手を触れないようにするだけでは在来生態系を保全できず、人間の積極的な介入が必要な場合もあることを教えてくれます。定着した外来種を野外から除去する方法としては、物理的(捕獲、抜き取りなど)、生物的(不妊化、天敵導入など)、化学的(毒餌、除草剤など)なものがありますが、いずれも膨大なコスト(費用、人員、時間)がかかること、生き物、とくに動物の命を奪う行為を伴うこともあり、外来種を問題とすること、対策を講ずることについては批判的な意見があります。
よくあるのは、外来種の定着は地域の生物多様性を豊かにするのでは、という意見です。また、地域の生態系は、新たな種の侵入、在来種の絶滅が繰り返されて形成されたもので、外来種の侵入を憂慮する必要はないという考えも聞かれます。しかしこうした意見は、外来種が引き起こす在来種の減少・絶滅を無視しているだけでなく、長い生命史の中で形成された地域固有の生態系の価値、その構成員を保全する意義を認めない考え方で、自然現象と人為、また、地史的時間スケールで起きる現象と短期間に生じる現象とが混同されています。
次回に続きます。
特定外来生物アライグマ(杉並区の東京女子大学キャンパスにて、2018年12月)
プロフィール:石井信夫(22回生)1952年東京生まれ。東京大学大学院農学系研究科修了(農学博士)。自然環境研究センター、東京女子大学に勤務。東京女子大学名誉教授。