平年と平年値-お天気百話⑮
2025年11月や12月に、天気予報の番組の中で、「今日は寒かったですね。でも、これでも平年並みの気温なのです」という会話をよく耳にしませんでしたか。このような時、「えっ。こんなに寒いのにいつもと同じなの」と突っ込みたくなったのではないでしょうか。
じゃあ、この「平年」ってなんなのでしょう。
気象学では、平年とは30年間の平均的な状態を示しており、30年間の平均値を平年値としています。そして、この平年は現実の年ではなく、比較のために作られた基準(物差し)となる年なのです。2025年現在、気象情報で用いられている平年値は、1991年~2020年の30年間の平均値です。
さて、この平年値は「気候」を表す代表的な数値、気候値でもあります。気候といったら、中学の社会、高校の地理ではおなじみも用語ですよね。そして、高校や大学の入試問題には、この気候値を図示した雨温図が頻繁に出題されます。でも、この雨温図は、単なる入試問題の題材ではありません。そこで暮らしている方々の服装や住まい、作物、そして産業を説明する上で欠かせない道具となのです。また、みなさんも、世界旅行に旅立つ前、地球の歩き方などでこの雨温図をご覧になり、服装や持ち物を決めた経験があるのではないでしょうか。
さて、この平年値は10年ごとに更新されることをご承知でしょうか。今度、平年値が更新されるのは2031年であり、ここでは、2001~2030年までの平均値が平年値として使用されることになります。この平年値がどの様に変わっていったのか、東京と横浜の気温の平年値からその変遷を示します(表1)。
これから、世代が誕生した年によって、平年値が異なることがわかります。東京で、団塊の世代が生まれた頃とα世代が生まれた頃の12月の気温の平年値の差が3.5°C近くあります。これは、単純に考えると、東京が鹿児島あたりまで移動したことに匹敵する数値です。
私たちが「寒い」「暑い」と感じる感覚と、天気予報の番組の中で「平年」は、必ずしも一致しません。そして、時間とともに変化します。だからこそ、気候の物差しである平年という言葉をどう使うのか。生活を向上させていく上で、このことは考えなければいけないことの1つではないでしょうか。
ペンネーム:つくばのトリさん
井草高校27期D組の卒業生です。
地図と時刻表をもって旅行することが好きで、高校時代は山岳部に所属していました。
その後、大学で気象・気候学の面白さを知り、その延長線で気象・気候に関係する職業に携わったので、茨城県のつくばに住んでいます。
これからも、どうかよろしくお願いします。
詳しくは、私のブログ「圃場管理のための気象のお話」の「著者プロファイル」をご覧ください。










