toggle
IGUSA High School Alumni Association
2025-06-01

哺乳類の保全を巡ってー奄美大島のマングース根絶(その2)

奄美大島のマングース根絶(その2)

 2000年度に始まった事業の初期には、島の人たちの協力を得て、1頭当たり定額の報奨金を払う制度(2003年度に終了)の下、多くのマングースがわなで捕獲され、生息数は大きく減少しました。しかし報奨金制度では、アクセスが難しかったり生息密度が低かったりする場所で作業に見合う収入が得られないため参加者の意欲も低下し、捕獲努力量(個々のわなの設置日数の合計)は頭打ちになりました。その一方で分布域の拡大は続き、根絶を目指すには、捕獲努力量を大幅に増大し、わなを計画的に配置することの必要性が明らかになりました。
 また、それまで使われていた生け捕り式のカゴわな(マングース以外の動物が捕まった場合は放すことができる)は、大型で重く、毎日の見回りが欠かせないなど、運搬や設置、管理などに手間がかかり、そのことも捕獲努力量を制限しました。そのため2003年度からは、常勤専従者による軽量な捕殺式の筒わな(捕まった動物が直ちに死亡するので毎日の見回りが不要)を用いた計画的な捕獲が始まりました。
 そして、2005年度の外来生物法施行に伴い、マングースは特定外来生物に指定され、「防除事業」として予算が大幅に増額され、常勤の捕獲専従者チーム「奄美マングースバスターズ」が結成され、島中にわなが配置されるなど、計画的捕獲が進展しました。ピーク時には、捕獲専従者が50名以上、わなの設置個所数は3万以上、年間の捕獲努力量は250万以上に達しました。
 ただ、捕殺式筒わなの採用によって、捕獲努力量が各段に増大できた一方、マングース以外の動物の死亡(混獲死)問題が生じました。そこで、混獲死をできるだけ防ぐための筒わなの改良、わなを設置する地域や季節を考慮した緻密な捕獲作業が行われました。
 2005年度からは探索犬導入の検討も始まりました。初めはマングースの糞などを見付け、近くにわなをかける想定でしたが、2008年度には、マングースを樹洞などに追い詰めてハンドラー(犬の運用担当者)が捕まえるという、根絶達成に欠かせない手法が確立されました。
 こうした作業を続けた結果、マングースの減少、分布域の縮小・分断化が進み、かつてマングースが高密度で生息していた地域から姿を消していたアマミノクロウサギ、アマミトゲネズミ、鳥類、カエル類などの在来種が顕著な回復を示すようになりました。
 2017年度には、わなが設置できず探索犬も入り込めないのでマングースが残っていた島で唯一の場所(道路法面の崩落防止フェンスの奥)で毒餌が用いられ、そこのマングースは見られなくなりました。
 そして2018年4月のオス1頭の捕獲以降、わな、探索犬、自動カメラによるモニタリングが6年以上にわたって続けられましたが、マングースの生息は確認されませんでした。しかしマングースが生き残っている可能性を否定できないため、数理モデルを用いて根絶確率が算出され、2023年度末時点での根絶確率はきわめて高い(約99%)との推定に基づいて昨年9月に根絶宣言が行われました。
 この事業の成功によって大面積の島からもマングースを根絶できることが証明され、また何より在来種の減少・絶滅を回避できたことが重要です。島の自然を守るために、捕獲されたマングースは塁計3万2千頭を超えたこと、捕獲作業の過程で多くの在来動物が犠牲になったことにも心に留めたいと思います。


環境省奄美野生生物保護センターに置かれている鳥獣魂碑 筆者撮影

プロフィール:石井信夫(22回生)1952年東京生まれ。東京大学大学院農学系研究科修了(農学博士)。自然環境研究センター、東京女子大学に勤務。東京女子大学名誉教授。

タグ:
関連記事