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2024-10-16

ゲリラ豪雨-お天気百話⑨

ゲリラ豪雨
 2024年の夏は関東地方では梅雨明けとともに、本格的な猛暑が続きましたが、その中でもとくに目立ったのが「ゲリラ豪雨」と呼ばれる局地的な大雨です。この現象はSNSやニュースでも話題となったので、みなさんもご承知のことかと思います。東京では、7月20日、31日、そして8月7日に、雷を伴う局地的な大雨が発生しました。7月20日には断続的な雷のため、JR上野駅では雨漏りが発生し、足立区の花火大会が中止されました(Yahoo!ニュース)。また、8月7日には埼玉県南部で大雨警報と洪水警報が発令され、短時間での天候の急変が大きな話題となりました(熊谷地方気象台)。
 7月31日もまた「ゲリラ豪雨」発生日して取り上げられています。ここでは、お天気百話②でご紹介したアメダス練馬で観測した気象データに基づき、この7月31日に観測された気象の詳細を見ていきましょう。このデータでは、短時間での天候の急変が顕著に記録されています(図1参照)。


図1.アメダス練馬において,SNSなどで「ゲリラ豪雨」として取り上げられ7月31日の気温,風向と風速,降水量そして日照時間の10分値の時間変化(気象庁HPより作図).

 図1に示されているように、この日はとくに、風向が変化し始める13時30分以降に、天候が急激に変化したことがわかります。午前中は、赤い棒グラフが示す日照時間が10minとなっていますが、これは、日射が雲の影響もなく十二分に地表面に降り注いだことを示しています。また、矢印の向きが示すとおり、風向は北寄りの風が卓越していました。しかし、赤い折れ線グラフが示す気温が最高気温を記録した13時30分ころから、風が東から南寄りに変化するとともに、雲の影響を受けて日射が弱くなります。そして、黒い折れ線グラフが示す風速が大きくなり、気温が急激に低下するとともに、青い棒グラフが示すように雨が降り出しました。この雨は17時50分から18時の10分間に17mm、17時30分から18時30分の1時間に53.5mmにもなる強い雨でした。練馬区では、この雨のために道路の一部が冠水(ウエザーニュース)したことから、気象庁は練馬区に18時9分に大雨警報、18時22分に洪水警報を発表しました(気象庁)。また、東京・埼玉を中心とする地域の7月31日の日降水量の空間分布(図2)からわかるように、メッシュが赤く塗られた降水量が80mm以上になったと推定される地域は、埼玉県南部から東京北部の距離30kmの範囲(赤枠で囲んだところ)に限られています。
 このように、7月31日の降雨は、短時間の天気の急変と局地的な強い雨をもたらした現象であることから、「ゲリラ豪雨」として、マスコミはもとより多くの人々に強い印象を与えました。
 しかし、この「ゲリラ豪雨」という言葉は、正式な気象用語ではなく、気象予報では「局地的大雨」や「集中豪雨」と表現されることが推奨されています。たしかに、この「ゲリラ豪雨」という言葉は,多くの人が危険にさらされる可能性がある大雨に対して注意喚起には効果的と考えられますが、印象が先行して、定義がはっきりしていないことから、その現象とその影響を正確な情報として伝えにくい(山下洋子, 2008)言葉です。しかし、風向きの変化とともに、青い空がにわかに黒々とした雲に覆われ、風が強くなって、気温の急降下、そして、強い雨に見舞われるという天気の急変、さらにこれが局地的な現象で、道路の冠水や、アンダーパスや標高の低い所、そして、地下室の浸水といった内水氾濫を短時間で引き起こすのであれば、これが「ゲリラ」的な現象であることを想像させます。
 このようなゲリラ豪雨は、今後も温暖化の影響により増加すると考えられています。生活や安全に大きな影響を与える可能性があるこのような現象に対して、私たちは、気象情報に注意を払い、適切な備えをしておくことが重要となるでしょう。


図2.東京、埼玉を中心とした地域における7月31日の降水量分布(メッシュ農業気象データより作図)。

ペンネーム:つくばのトリさん
井草高校27期D組の卒業生です。
地図と時刻表をもって旅行することが好きで、高校時代は山岳部に所属していました。
その後、大学で気象・気候学の面白さを知り、その延長線で気象・気候に関係する職業に携わったので、茨城県のつくばに住んでいます。
これからも、どうかよろしくお願いします。
詳しくは、私のブログ「圃場管理のための気象のお話」の「著者プロファイル」をご覧ください。

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