梅雨は猛暑を短くする救世主でしたーお天気百話⑬
梅雨にうんざりしていたあなたへー梅雨は猛暑を短くする救世主でした
毎年、6月20日頃に夏至を迎えます。夏至とは、一年のなかで南中の太陽高度が最も高く、昼の長さが最も長い日です。ですから、大気外水平面日射量(上空の大気上端で受ける日射量)は、この夏至を含めた6月の値が最も大きくなります(図)。さらに、大気は加熱されるのに時間がかかる性質があることから、最暖月(月最高気温が最も高い月)となるのはこの大気外水平面日射量が最大となる月から約1か月後です。夏至から約1か月後の7月にロンドンでは19.0°C、ニューヨークでは26.0°C、モスクワでは19.7°Cなど、世界の多くの地点で7月に最暖月を迎えるのはこのためです(気象庁より)。
一方で、東京では、観測史上最も暑かった2024年でさえも、8月に最暖月を迎えます(図)。そればかりでなく、日最高気温が25°C以上の日(夏日)の日数、日最高気温が30°C以上の日(真夏日)の日数も8月が最も多くなります(気象庁より)。
なぜ、東京では最暖月が8月になるのか。これは、6月から7月の梅雨の時期に、降水を伴う厚い雲が地表面に降り注ぐ日射を弱めているからです。東京では、全天日射量(大気を通過して、地表面が受け取る日射量)は5月にピークとなり、6月から7月にかけて大幅に減少します。すなわち、5月には大気外水平面日射量の46%(18.2 MJ/m2/day)が全天日射量として地表面に達しているのですが、6月には42%(17.4 MJ/m2/day)に落ち込みます。ここで注目すべきは、梅雨は私たちに貴重な水を与えてくれる長雨の期間ですが、じつは、1年で最も大きい時期の日射を弱め、夏前半の暑さを和らげてくれる期間でもあるのです。ですから、もし、梅雨がなければ、7月の月平均気温は8月よりも高くなるばかりでなく、夏日、真夏日も早くから出現し、早くから暑い夏を迎えることになります。
今年(2025年)は、西日本では6月27日頃に梅雨が明けました(気象庁より)。また、この梅雨は空梅雨であったことから、6月に地表面が受ける日射量は2024年よりも大きくなりました。これにより、この夏の西日本は、いつもより早くから猛暑に見舞われたため、夏日、真夏日、猛暑日の日数は平年よりも多くなることが予想されます。関東に住む私たちもつらい暑さが長期につづくことを覚悟し、早めの暑さ対策を行う必要があるかもしれません。
図.大気外水平面日射量と気温(左軸)、そして大気外水平面日射量に対する全天日射量の比(右軸)の月変化(2024年と2025年)(気象庁より).
ペンネーム:つくばのトリさん
井草高校27期D組の卒業生です。
地図と時刻表をもって旅行することが好きで、高校時代は山岳部に所属していました。
その後、大学で気象・気候学の面白さを知り、その延長線で気象・気候に関係する職業に携わったので、茨城県のつくばに住んでいます。
これからも、どうかよろしくお願いします。
詳しくは、私のブログ「圃場管理のための気象のお話」の「著者プロファイル」をご覧ください。